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'西海道談綺' [書物(本・雑誌)雑感]

西海道談綺
松本清張
文藝春秋 文春文庫ま-1-76・77・78・79
2009年7月25日第7刷(【初出】週刊文春:1971.5.17-1976.5.6号)
ISBN (978-)4-16-7106(76/77/78/79)-X

 私は読書する時に、為になるものより面白いほうが好き。日本の長編伝奇小説と呼ばれるものは大好きである。鳴門秘帖・神州纐纈城などをこの雑感でも書いている。そして今回、西海道談綺を読んだが著者があの松本清張。清張はあまり読んでいないと思っていたが、点と線・黒い福音など結構読んでいる(砂の器は小説より映画が良かったと思っている)。高校生の頃、休日に叔父の家に行った際には日本の黒い霧が置いてありボツボツと読んだ記憶がある。だから、松本清張の伝奇小説(清張にこのような作品があることを知らなかった)として興味を持って読み始めたが・・・。

 出だしは素晴らしい。上役と密通した妻を、自分の務めていた鉱山の坑道から下に突き落としけじめをつける主人公、伊丹恵之助。勿論、密通した妻は間男とともに切り捨てることが当時の武士の面目である以上、恵之助の取った行動を云々出来ないと思うが、私としてはオイオイと思う行動だ(^^;。でも、それが当然のこととされる時代であると納得しないと物語はなりたたない。妻、志津は恵之助納得のいい女である。間男といっても上司であり、志津殺害でけじめをつけた恵之助は脱藩し、お江戸にでる。江戸城茶坊主宗全から知遇を得、恵之助の鉱山(お山)の経験を知っている宗全の意向で九州日田に向かう。物語はここからはじまる。

 正直、物語の途中までは時間のテンポも普通の小説である。ところが舞台の日田の西国郡代役所に行き事件の大まかな紹介がすみ、役者が日田にそろってからが時間の進行の割に長い。一方、お江戸のほうは割と簡単に状況の説明だけですませてしまう。重要な役どころと思えた森藩菅沼吉十郎も手紙を書くだけとは伝奇小説としてチョット寂しかった。江戸で知り合い、日田まで恵之助を追いかけてくるヒロイン柳橋のおえんさんに全ての男衆が惚れてしまうのも如何なものだろうか。清張先生、ご自分が惚れる女性は男性皆が惚れると思っているのだろうか?それほどいい女だとは決して強調されていないと思うのが・・・。

 なにせ長い小説だ、文庫本で 500ページ以上が四冊。以前のようにチェックを入れながら読んでいないので最終本から少し。

 この本では歴史的なこと宗教的なことなど背景・事柄を説明して、清張先生の肉声がポツンとはいる。それはそれで結構納得で面白い。でもオッと読むところが一ヶ所あった。火薬の説明の項で、武器としての秘密があってハッキリ書いていない、それは「簡単すぎる文章だったり、逆に難解な文章形態をとっていたため」であるとしてさらに以下に続く。
 簡単すぎる文章や、難解な文章で、火薬の製造法が捕捉できないように誤魔化してあったのだ。されば、文学者の中には難解な文章形態によって意味を容易に読者に捕捉させないようにして、もって空疎な内容を糊塗する手合いがある。
 高邁そうで近代的に見え、やたらと新造語や文脈の乱れた文章を駆使している批評家にしても、そのような誤魔化しからである、と思ってよい。
(松本清張:西海道談綺4、文春文庫P280)

 これほど長い肉声は他にないし、清張先生の考えをお聞きした感じがした。確かにそうなのだが、医学文献などは知らない単語が出て来てチンプンカンプンになっても、著者が悪いのでなく不勉強な当方が悪いのだ。だから小説でも簡単な単語だけでよしとするものでもなく(清張先生の場合簡単すぎる文章としている)、読者もそれなりにお勉強がいるのだろう。本書でも難しいところがいくつもある。でも、清張先生の文章は具体的な方を念頭に置いている感じだ。(^^;

 この本のテーマは、物事に目を瞑って貰うための賄賂だが、事のついでに清張先生は勘定奉行の悪事の例として田口加賀守について以下の文章を引いている(新井白石:折たく柴の記)。
 近頃は商人どもの入札というのは名ばかりで、勘定奉行に「たてもの」と称する賄賂を贈ることによって落札が決まる。あるいは百両あるいは千両をまず奉行にいれて、このたびのお上のご用命はぜひ手前どもに仰せつけくださるよう、もしそのようにしてくだされば表むきの値段より下げてその差額の金をさしあげますと云う。この「たてもの」の礼物(注、リベート)の少いものは入札することすら許されなかった。だから入札あるたびに、奉行の手に入るのが千両以下ということはなかった。民間の事業では百両までかからないで済むものも、公の事業では、万両も費わないとそのことができないのである。
(松本清張:西海道談綺4 文春文庫P431)ンッ?松本清張訳?

 このことは今の世の中でも同じことで、幹事長室を通すことにすれば、幹事長が好むと好まざるに関わらず、商人は賄賂を贈りたがる。もちろん、清廉潔白に対応される幹事長様もいるのだろうけど・・・。一元化などと幹事長室だけを通すことにすれば、権力がそこに集まると熟視されている幹事長様の発想だろうなと半年前に感じた。

 そうだ、本の話だ。エッーと、恵之助さんが最後に活躍できなかったのは痛恨のミスでないだろうか?最初から最後まで甚兵衛さんが格好良い。また、向井さんの症状も、如何に好きな女のためとはいえ、後弓反張を認める破傷風にしては動き回って軽すぎると思うけど・・・。


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