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'アフリカの蹄' [書物(本・雑誌)雑感]

アフリカの蹄
帚木蓬生
講談社 (講談社文庫 は-47-1)
2003年 8月22日第14刷発行(1997年 7月15日第1刷) (単行本1993年3月講談社)
ISBN 4-06-263587-9


 僕は絶対正しいとか絶対間違っているとか、この世の中にはないと思っている人間だ。でも不当な差別、この本では人種差別だが、はやはり間違っていると思う。たとえ、きっかけが「曾祖父の時代、黒人の使用人が外部の黒人グループと通じて家と倉庫を焼き打ちしたのが理由だ。武装した五十人の黒人集団に家族十人が立ち向かうすべはなく、倉庫の中身は持ち去られ、曾祖母と小さな子供ふたりが煙に巻かれて死んだ。祖父はかろうじて家を抜け出し、畑の藁積みの中に隠れて難を逃れた」(ノーマン・フォックスについての記載)であっても。

 人種差別と云えば、南アフリカ共和国のイメージが私どもには強い。解説を読むまで気付かなかったが、本書には「南アフリカ共和国」の文字は一切でないようだ。でも、題名が「アフリカの蹄」である。
「ドクター、この国がどうして<アフリカの蹄>と言うのか教えてやろうか」
 作田は黙って頷く。
「エチオピアやスーダンは<アフリカの角>と呼ばれるね。アフリカ大陸は牡牛の形をしているだろう。この国はちょうどその足にあたる。だからアフリカの蹄。しかし、この国はまた別の意味で蹄なんだ。白人が我々黒人を牡牛の蹄で蹴散らし、踏みにじっている場所なんだよ。俺たちはこの国にいながら、実際は存在していない。俺たちの身分証明書がいい証拠さ」

 黒人たちの身分証明書の国籍には「現在のところ未定」と記入されている。そこにカラードでありながら、名誉白人である日本人のひとりとして主人公作田が行っているわけだ。

 作田はお医者さん。まだ(当時)日本で行われていない心臓移植の勉強のために、この国を訪れていた。ブラック・スポットと呼ばれる黒人居住区の診療所に出入りするようになり、「二歳くらいの男児が母親に抱かれている。小豆大の水疱が全身を覆っていた。枯れて消褪しかけている皮疹や丘疹もなく、虫の吸い口もみあたらない。すべて水疱が。熱は三十七度五分だった」患児を診る。そして病気に対応する過程で、その裏にある陰謀に気付くわけだが、この過程はやや強引である。もっと知的にアプローチして欲しかったが、全体の流れから無理も云えないかも知れない。その陰謀を打ち砕くため、またワクチンを作るために国外脱出することになる。

 無事脱出して、僕だったら再び<アフリカの蹄>に戻るだろうか?消される危険性も高いのだ。映画「遠い夜明け」(南アフリカ共和国でこの映画が公開され、劇場爆破が相次いだと書かれている)を御覧になられた方は判ると思う。身に危険が迫り、それまで全力で患者さんへの治療も行った、根本的な対策への最大の努力も行った、今は安全な国にいて自分の祖国は日本だ・・・。正直、戻れないと考えて戻らないと思う。

 でも作田医師は恋人パメラがいるし、アフリカの蹄に戻る。医者って本当に楽観的な考え方をする人が多いのではないだろうか。そうでなければ出来ない商売だと思う。医者は家族を診てはいけないと云う鉄則も、楽観的に診断してしまうからだ。そういうこともあり、生命の危機を顧みず戻った作田だが結果的には良かったことになる。恋人パメラは、アフリカの蹄について(上の引用説明は彼女の兄ニールによるが)云う「フフ。でも私があなたに言って欲しいのはそうじゃない。逆よ。みんなはアフリカの蹄なんだ。蹄が動かないと、牡牛は歩けない、走れない。だから、みんなで力を合わせてアフリカの蹄になり、走ろう。高らかに蹄の音を響かせるのよって」。そのような光景に出会えることになる。そんな小説だ。

 登場人物もレフ父子なんか良いですね。息子のジュリアンが作田に長崎の国際ウイルス学会へ出席したことなどから話しかける。
-日本人は黄色人種かと思っていましたが、白人よりも肌の白い女性もいるし、インド人なみに色の黒いのもいるのには驚きました。
 彼はそう言い、日本のいくつかの地域に多い成人T細胞白血病にも言及した。ATL ウイルスによってひきおこされる白血病で、ウイルスのキャリアのうち二十人に一人が発病する重篤な疾患だ。面白いことに、同じウイルスによる白血病は、アフリカの象牙海岸や内陸部のザイールにも多発地帯があった。
-日本の南部のいくつかの地域に患者が多いと聞いて、私はピーンときました。アフリカの黒人がその昔、奴隷としてそれらの地域に売られてきたのではないかと思ったのです。
 その助教授は特徴のある長い顔を作田に近づけた。
-彼らは日本人と結婚もし、子供も生まれたが、奴隷売買は一時期で途絶え、黒人の血は次第に薄くなった。しかし、ウイルスだけは、御存知のように母乳で子供に感染していくため、代々引き継がれていったのです。しかも、日本は長い間鎖国をしていて、住民の移動も少なかったというではありませんか。ほんの二、三人の黒人女性が日本の南部のいくつかの地域に上陸したと仮定しても、二、三百年後には、ウイルスのキャリアは数万人になります。立派に説明がつくのです。このことを学会に来ていた日本人学者に話したら、口をポカーンとあけてあきれ返っていました。文献上、そんな黒人奴隷が日本に上陸した記録はないと反論するのです。しかしこんな交流は地方におけるしかも庶民レベルの出来事で、記録に残るほうがおかしいのです。研究者というものはもっと想像力をたくましくしなければいけません。

(「ウィルス」とあったのを「ウイルス」と書いたが、そのままで。m(_ _)m )

 このウイルスは日本西南部のみでなく北にもあり、元々の日本人が持っていた所へ、持たない民族が近畿を中心としてやってきて同心円状に日本の片隅に追いやられたと思うけど・・・。まあ、学者が想像力を働かせるのは発表しない限り問題ないし、必要だろう。この方とお父さんのモーリス氏、非常に大事です。

 また長くなり(^^;、心臓移植と名誉白人について簡単に。心臓移植はこの国では黒人から白人への一方的なものだったという指摘は重い。ジョンQなんか観ていると、貧乏人からお金持ち(その逆は絶対ないということ)がアメリカだとすれば・・・。そして名誉白人については「まさか、自分たちが白人同様金持で頭が良いから、とは思っていないだろうね。いや確かに、日本人は頭が良くて、金持かも知れない。俺は知らんよ。何しろ直接口をきいた日本人はあんたが最初だからな。あんたの国は、この国の貿易相手国としてはナンバー・ワンなんだ。輸出二十五億ドル、輸入二十億ドル、合計四十五億ドル。その見返りとしての称号が<白人>さ。世界の工業国のほとんどがこの国との取引を拒んでいた時にも、日本だけは脇目もふらず商売に専念していた。だから、日本は、白人にとって実に有難い頼りになるパートナーなのさ」と説明される。さすが、元 TBS勤務の帚木氏だ。以前からの疑問、どうして名誉白人だったの、が氷解しました。

 楽天的な作田でもどう感じるかと思うリンチのこと、天然痘の猛威、因果応報のこといろいろ書くことある本だけど、これにて。m(_ _)m 自分で読んでね。最後は感動ものだから。

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